ジヤトコの人財教育とリベラルアーツの力
ジヤトコでは技術や知識の研修だけでなく、従業員一人ひとりの「考える力」や「感性」を育む人財教育にも力を入れています。
先日、その一環として「対話型美術鑑賞&アート思考セッション」が静岡県長泉町のベルナール・ビュフェ美術館で開催されました。日本、メキシコ、タイ、中国、韓国と、国籍も所属部署も異なる12名の従業員が参加し、アートを題材に“正解のない問いに向き合う体験”をしました。
外部講師として、泉本保彦さんをお招きしました。泉本さんは経営戦略コンサルタントとして活躍する一方、“アート思考を用いた人材教育プログラム”のファシリテーターとしても豊富な実績を持っています。
この取り組みは、幅広い教養や人間力を養う「リベラルアーツ教育」にも通じるものです。アートを通して多様な視点に触れることは、専門知識や業務スキルだけでは得られない、人間としての厚みを育てる機会となります。

絵を前にして生まれる多様な視点
最初のプログラムは、美術館の広い吹き抜けに展示された一枚の大きな絵を前にして行われました。参加者は一人ずつ、英語で感想を口にするよう促されます。
「難しいな」
「何を言えばいいんだろう」
最初はどこかぎこちなく、発言をためらう様子も見られました。しかし、講師がすべての発言を肯定し、「それも大切な見方です」と受け止めると、徐々に空気がやわらいでいきます。
「私には3人とも同じ人に見えます」
「人物がこちらを見ているようで、不思議な気分です」
「未来を見たくないような表情をしています」
誰かの感想に触発されて、別の人がまた自分の言葉を重ねる。国籍も部署も違う仲間が、アートを前にして互いの感性を自由に出し合う場面は、とても新鮮でした。
参加者の一人は「正解を言わなきゃいけないという気持ちが最初はあったけど、むしろ違う意見が歓迎されることが分かって、話しやすくなった」と振り返っていました。

言葉だけで描く世界
次のセッションでは、2人1組での体験が待っていました。片方がアイマスクを着け、もう一方が目の前の絵を言葉だけで描写して伝えます。
「木がたくさん生えています」
「空の色は灰色です」
「建物の形が少し歪んで見えます」
描写する側は、限られた時間の中で必死に言葉を探し、相手に伝えます。受け取る側は、耳から入る情報だけを頼りに、頭の中で絵を描いていきます。
5分ほどしてからアイマスクを外し、想像して描いた絵と実際の絵を見比べると、そこには驚きと笑いがあふれていました。
「思ったより近かった!」
「いや、全然違うけど面白い!」
「同じ言葉を聞いても、こんなに解釈が変わるんだね」
単なるゲームのように見えますが、実際には「伝える」「受け取る」というコミュニケーションの本質を体感することができるプログラムでした。
どう表現すれば相手に伝わるか?どう解釈すれば相手の意図を正しく受け取れるか?という疑問が、普段の仕事にも直結する大きな学びとなりました。


正解のない問いに挑むということ
今回のプログラムを通じて、参加者たちが体感したのは「正解のない問いに向き合うこと」の大切さでした。美術作品には、数式のように一つの答えがあるわけではありません。同じ絵を見ても、ある人は「悲しさ」を感じ、別の人は「強さ」を感じる。そのどちらもが正解であり、同時に正解がないものとも言えます。
これからのジヤトコを取り巻く環境は、予測不可能で、マニュアル通りに答えが出せる課題ばかりではありません。自動車業界全体が100年に一度の大変革期を迎える中で、私たち一人ひとりに求められているのは、「自分なりの問題意識をもち、美意識や価値観を働かせながら、ストーリーのある提案につなげる力」です。
アートを通じた対話は、まさにその力を養う“リベラルアーツ”の実践であり、人間力の向上にもつながります。参加者の一人は「普段は効率や論理ばかりを意識してしまうけど、今日は“感じること”や“違いを受け入れること”が大事だと実感した」と感想を述べていました。

明るい未来を描くために
ジヤトコがこれからも持続的に成長していくためには、多様な視点を持つ従業員が互いに刺激し合い、正解のない課題に向き合う文化を育てていくことが不可欠です。今回の「対話型美術鑑賞&アート思考セッション」は、その第一歩として、参加者に大きな気づきをもたらしました。
アートに正解がないように、私たちが直面する課題にも唯一の答えはありません。だからこそ、自分の中に芽生えた問いや感覚を大切にし、それを仲間と共有しながら未来を描いていくことが大切です。
ジヤトコの明るい未来は、従業員一人ひとりの“問いかけ”と“物語のある提案”から生まれていきます。
そして何よりも、アートは私たちの身近にあります。ぜひ休日に、美術館を訪れてみてはいかがでしょうか。作品を前にじっくりと向き合う時間が、新たな発見やリフレッシュにつながり、皆さん自身のリベラルアーツを育む一歩となるはずです。
■ベルナール・ビュフェ美術館
https://www.buffet-museum.jp/
フランスの画家ベルナール・ビュフェ(1928–1999)の作品を中心に展示する美術館。
ビュフェの油彩、水彩、素描、版画、挿画本、ポスターなど、約2,000点を超える作品を所蔵しており、常時100点以上が展示されています。館内では、ビュフェの初期から晩年に至るまでの作品を年代ごとに展示し、彼の芸術の変遷を辿ることができる。