アントレプレナーシップの体現者たち DNP大日本印刷
「対話」と「協働」からイノベーションは生まれる
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総合印刷会社の大日本印刷(DNP)が2020年に出した企業広告です。ブランドステートメントの「未来のあたりまえをつくる。」に向けた挑戦を、陸上のクラウチングスタートの誕生に重ね合わせて表現し、その年の「第36回読売広告大賞」グランプリを受賞しました。
「アントレプレナーシップの体現者たち」の第2弾は、大日本印刷株式会社 コーポレートコミュニケーション本部コラボレーション戦略室室長の伊藤哲さんと、同室P&Iラボ推進グループの高橋芳洋さんにお話を聞きました。
DNP高橋さん(左)と伊藤さん
2017年にP&I(Printing&Information)ラボを設立しました。その背景を教えてください。
伊藤:大きかったのは2015年のDNPグループビジョン改定です。
当時は業績が停滞している時期でした。印刷業界は受注産業と言われ、お客さまから引き合いをいただいて初めて仕事が成立するビジネスです。そのため、自ら新しい価値を創出する、という発想する人が少なかった。この「受注体質」な組織風土に危機感を覚えて、これからは新しい提案や何かにチャレンジしていかなければいけないと感じ、2015年に新しいグループビジョンを発表しました。「人と社会をつなぎ新しい価値を提供する」という企業理念を掲げ、ブランドステートメントの「未来のあたりまえ」を、自ら作っていくんだと。
そのころから、印刷プロセスから培った多くの技術を活かして社会に貢献できる事業を、パートナーと一緒に生み出す仕組みづくりができないかという思いがありました。取引先の技術とDNPの強みであるP&Iを掛け合わせ、対話と協働で新しい価値をつくっていく場として、オールDNPの技術・製品・サービスを体系的に展示した施設が必要ではないか、ということでP&Iラボの設立計画がスタートしました。ものづくりのエンジニアを中心に、マーケティングや営業らが構想を練り上げ、本日ご覧いただいたP&Iラボ・東京の前身であるP&Iラボ・テクノロジーを2017年に東京・五反田にオープンしました。
大日本印刷 HPより
Q. P&Iラボのコンセプトは何でしょう?
伊藤:単にショールームとして商品を展示するのではなく、DNPの技術をお客さまに紹介し、対話と協働で新しい価値をつくっていくということです。「これが出来るなら、これも出来ませんか?」「DNPの技術を利用すれば、社内外の困りごとを解決できるかもしれない」といったお客さまの声を聞くこと、つまり課題抽出、そしてお客さまと一緒にその課題を解決していくことが狙いです。実際にお客さまと我々が持っている技術をかけ合わせて実現した製品もあります。
高橋: DNPの社員がお客さまの研究所に出向いたり、P&Iラボでお客さまと対話をしたりして新しい製品が生まれています。お客さまからヒントをもらうこともありますし、社内での会議でも発展する芽はあります。「対話」を通して協働していくのがポイントですね。
伊藤:おかげさまで予約が取れない施設になってきましたが、急遽キャンセルが発生すると、社員に向けてP&Iラボを開放したり、社員向けに見学ツアーを組んだりしています。会社への理解を深めつつ、自分の会社の凄さを知り、誇りを持ってもらいたいからです。また、年に一度、社員のご家族を会社に招待するDNPファミリーデーにもP&Iラボを活用し、家族の方にも会社への理解を深めてもらっています。
高橋:幸い当社の場合は、出版などのいわゆる印刷だけでなく、エレクトロニクスやメディカルヘルスケア、モビリティなど色々な事業領域があります。DNPにはそれらの強みを持つ技術や人財があります。会社はその広い領域をもとに、対話と協働を重ねることで新しい価値を生み出していく体制に変わってきました。
ただ、現場にとってはどうしても目先の売上重視になってしまいます。会社としては、短期的な売上もさることながら、新領域拡大も必要です。そこを形にしないといけない。お客さまとの対話から協働が生まれ、そこからNDA(秘密保持契約)を結び新製品開発をおこなうことなども実際にあります。私たちの部門では、対話と協働の場づくりで全社をしっかり支援していきたいと思っています。
街がDNPに染まったら?(P&I CITY)
コア技術を多方面に転用(P&Iラボ・東京)
バックキャストで考える未来(P&Iラボ・東京)
伊藤さん
高橋さん
Q.アントレプレナーシップを社内に醸成するためには?
高橋:数年前に社内外での複業制度(DNPグループ内の他部門や社外の業務を兼務できる制度)を取り入れ、現在拡充しています。そういったものに手を挙げる社員は主務をやりつつ、別のことをやりたい、アントレプレナーシップを持った方だと思います。他社さんにも社外の複業制度はありますが、当社の場合「この部署のここだけやって」のようなスポット的な兼務が可能です。公募するケースもあれば、自ら手を挙げるケースもあり、お互いの部署にとって良いシナジーが生まれています。活用している社員は多いですし、9月号の社内報でもキャリアチェンジと題し、DNPの人事制度・公募・FA制度・キャリア相談室などを紹介しています。なので、会社としては蜘蛛の糸が垂れている状態です。現状に満足できない社員はその糸をつかめるかどうか。そこはDNPならではのとても良い制度だと思います。
社外複業も活躍している従業員もいて、例えば、恐竜コンサルタントもいます(笑)。「挑戦」というメッセージはトップからだけでなく、月次レポートなどでも発信されています。
伊藤:当時は新しい主力製品がなかなか出てこない悩みが多い中で発表されたグループビジョンでした。なかなか風土は変えられませんし、まだ十分ではないと思いますが、グループビジョンに対し、まっすぐではありませんが、少しずつ前進しています。
Q.大日本印刷さんから見たジヤトコは?
高橋:ジヤトコさんにはトランスミッションという誰も負けない技術がありますし、その強みを活かして、新しい価値に発展させていくことが重要だと思います。当社にも当社だけの強みがありますし、我々とスタートは一緒だと思っています。両社の強みを掛け合わせてぜひ一緒にワークショップやりましょう。
伊藤:何か変わらないといけない、と気付くことが重要です。自分たちの強みは当たり前すぎて気づかないことが多いです。あとは(コア技術を)守らないといけないことにも気付くこと。それが出来るか出来ないか、だと思います。P&Iラボで当社の技術の歴史をご覧いただいたかと思いますが、当社としては当たり前だと思っていた技術やノウハウから新しい事業、製品・サービスがどんどんうまれてきました。
世の中の変化は激しいですが、先人たちがそこを大切にしながら生かしてきたことを再認識する必要があると思っています。
高橋:当社は創業当初、編集→入稿・レイアウト→製版・刷版→印刷→製本・加工、という5要素から始まりました。そこから発展した微細加工や精密塗工の技術を応用し、例えば半導体の回路を作る形に派生していきました。それはコア技術があったからです。それをスライドして考えると、ジヤトコさんのトランスミッションも転用可能なものがあるはずで、それは自動車関係に限らないはずです。
Q.今後の展望を教えてください。
伊藤:「挑戦する」「コラボレーションする」ことが“社内では当たり前”になりたいと考えています。「困りごとがあればDNPに相談してみよう、何かしてくれるはず」とお客さまから思っていただけるように頑張ります。
また、当社が持っている技術だけが強みではなく、多種多様な業界の方々とのコネクションや、お客さまとしての接点もありますし、材料メーカーさんとの接点もあります。その数や質も強みだと思います。当社は取引先企業が3万社以上ありますが、皆さんとの接点を増やす動きを営業中心にどんどんやっていこうとしています。
高橋:協業無くしてイノベーションはないと思っています。
「対話」「コラボレーション」「イノベーション」はすべてつながっていると思います。原点は対話なので、その母数を増やしていきたいです。
現場にいた人間としては、アントレプレナーシップと聞いて、「うれしい、やってやる」と思う人は必ずいると思います。そこをフックアップ出来るような体制になっていれば良いと思います。
実はファストフードチェーンの「おもちゃリサイクルBOX」とも深い関係が
【大日本印刷株式会社】
1876年(明治9年)10月に秀英舎として創業。
総合印刷会社でありながら、事業組織は出版イノベーション事業部、情報イノベーション事業部、イメージングコミュニケーション事業部、Lifeデザイン事業部、生活空間事業部など多岐にわたる。
従業員数:36,911名(連結)、売上高1兆4,248億22百万円(連結)